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第6回 残業を生む心理-1.「パーキンソンの法則」

執筆:松島 紀三男(まつしま きみお) 公開:



私は最近「残業ゼロ」「残業削減」を研究テーマとして力を入れています。ライフワークにしてもいいな、と思っています。そこで、これから「残業ゼロ」実現を目指して、それにまつわるいろいろなことを綴っていきたいと思います。お付き合いただければ幸いです。

今回のテーマは、「残業はなぜ発生するのか、その根源にある心理を探る」ことです。

 

 

1.「残業」の根底には人間ならではの心理がある

 

前号のコラムで、残業の発生原因には「論理的要因」と「心理的要因」があることを説明しました。再度確認すると、論理的要因とは、業務量、業務プロセス、設備等、自然科学に基づき合理的に組立てることができ、論理的に分析、解決が可能な要因のことであり、例えば、一人当たりの業務量が膨大で、残業が大量に発生している場合などがこれに当たります。心理的要因とは、人間の心理に内在する要因に基づくものであり、精神状態により支配され、時に非合理的な判断に基づく人間の行動によって発生する要因のことです。例えば、自分の仕事は終わっているのに、上司に気兼ねして付き合い残業をしている場合などは、上司への好意的配慮や、上司に嫌われたくないとか、評価が下がるのではないかという不安心理が原因となっています。

ただし、上記の論理と心理は必ずしも独立して残業に作用するものではなく、相互に影響し合うものであり、多くの場合因果関係が存在します。例えば、会議や書類がなぜ多くなるかというと、その根底には、一度出来た会議や書類を不要と意思表示すると組織内で評価が下がるかもしれないという怖れ、不安が多くの場合存在するからです。むしろ、論理の背景には必ず心理的要因が作用していると言っても過言ではなく、純粋に論理的に組み立てられた仕事も、それを実践していくのは人間であり、感情を持つ存在ならではの心理的要因が生産性や結果を左右します。そういう意味では「残業」の原因としては、人間ならではの「心理的要因」が、より根源的なものとも考えられます。

 

2.「時間」は必ず使い切られる~パーキンソンの法則

 

 人間や組織の行動に働く心理的問題を明らかにした研究は数多くありますが、特に「残業」の発生に大きく関わると考えられるのが「パーキンソンの法則」です。「パーキンソンの法則」とは、英国の歴史学者・政治学であるC.N.パーキンソン(『パーキンソンの法則:進歩の追求』、1958)よって提唱されました。この法則は二つあります。

 

◎パーキンソンの第1法則

「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて使い切るまで膨張する」

◎同第2法則

「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」

 

二つをまとめると「資源は全て使い切られる」ということですね。個人にしても組織にしても「人間の営みは、与えられた資源を全て使い切るまで膨れあがってしまう」のが普遍的行動特性だと言えるでしょう。

 これを「残業」に当てはめると「法定労働時間」は、全て使い切られるまで従業員は仕事をする、「残業」は36協定の限度まで膨張する、といった傾向を生みやすいものです。具体的に見られる傾向としては、以下のような現象がしばしば発生します。

 

・精緻化              …凝りすぎ、過剰品質

・肥大化              …余計な会議、無駄な書類、調整のための調整

・減速                  …無意識または意識的にゆっくりやってしまう

・過剰補償           …「あと○○時間は使える」「まだ時間はある。諦めないで頑張れ」

・先送り              …「あと○○日、○○時間はある」「○月○日までにやればいいんだな」

・偽装                  …とりあえずパソコンの前にいれば仕事をやっているように見える

 

どうでしょうか。あなたの周りにもこういう事例は見られますか。私も同様の経験があります。

 

3.「残業を生む心理」に対する解決策

 

 放置していれば、人間、組織はこの「パーキンソンの法則」からは残念ながら逃れられません。それではどうしたらよいでしょうか。処方箋はありますよ。このような事象が見られたら、まずは以下のような方法を試してみることをおすすめします。

 

1)労働時間シーリング

「残業ゼロ」など、労働時間の上限を決めて、厳格に統制する。WBS等で仕事を細分化し、各仕事毎に上限時間をきめ細かく設定し、進捗管理する。前号で述べた、労働時間のデッドライン・マネジメントを行うことです。ただし、持ち帰り残業、品質の低下などの副作用が出ないか注意しましょう。

 

2)ゼロベース労働時間

労働時間ゼロからスタートし、必ず必要な仕事を挙げて、各仕事毎の所要時間の見積を積み上げることで、労働時間の合計を出します。ゼロベース予算と同様の手法です。法定労働時間にこだわらず、時短をやってみると良いですね。

 

3)資源を残すことを評価、報償する

人間は人より短い時間しか働いていないと不安になるものです。「こんな短くて成果が出るだろうか」「こんなに早く帰って上司からにらまれないか」等々の心理が働き、ついつい望まない長時間労働が規範となって定着している組織は多いと思われます。

思い切って、「残業ゼロ」の社員を高く評価する。時短の成果を賞賛、報償するというマネジメントを行ってみてはいかがでしょうか。

 

4)率先垂範

あなたが部下を持っていれば、自ら積極的に「時短」しましょう。それによって、部下は「私も早く帰ってもいいんだ」「堂々と私も休める」「上司を見習って私も限られた時間に集中して成果を出そう」という心理状態になるでしょう。

 

無意識な時間の法則による呪縛を自ら解き放ち、真に「自由」な働き方を確立することが大切だと考えます。



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