第5回 残業はなぜ発生するのか、その多元的原因を明らかにする
執筆:松島 紀三男(まつしま きみお) 公開:
私は最近「残業ゼロ」「残業削減」を研究テーマとして力を入れています。ライフワークにしてもいいな、と思っています。そこで、これから「残業ゼロ」実現を目指して、それにまつわるいろいろなことを綴っていきたいと思います。お付き合いただければ幸いです。
今回のテーマは、「残業はなぜ発生するのか、その多元的原因を明らかにする」ことです。
1.とりあえず「残業ゼロ」は危険
実は「残業削減」は必ずしも発生原因の究明を必要としません。なぜなら、機械的に「残業禁止」(私は、これをデッドラインアプローチと名付けています)にしてしまえば、とりあえず「残業ゼロ」は達成できるからです。ただし、見かけ上「残業ゼロ」が達成できても、うまく行っている場合とそうでない場合があります。大別すると以下の三つのケースが考えられるでしょう。
A.健康な「残業ゼロ」
実際に効果的に「残業ゼロ」が実現し、種々のメリットが表れている。
B.仮面「残業ゼロ」
名目上「残業ゼロ」だが、実は不払い(サービス)残業(風呂敷残業含む)に転換されただけ。
C.無理矢理「残業ゼロ」
「残業ゼロ」だが、無理に実現したため、仕事の成果減少や顧客満足度(CS)低下が発生している。
A.の場合だったらいいのですが、B.は従業員にしわ寄せが行き、C.は業績に悪影響が発生し、いずれの場合も中長期的には経営の悪化を来す可能性が高く、本末転倒です。また、B.とC.とは複合的に発生する可能性も非常に高いと言えます。
機械的に「残業禁止」または削減の規制策を設ける「デッドラインアプローチ」がうまくいく可能性も一定あるのですが「やってみないとわからない」のでは、失敗した場合の損失が大きな懸念材料です。
従って「デッドラインアプローチ」が効果を発揮する可能性の予測も含めて、「残業ゼロ」を目指す上では、現在の自社の残業発生要因の診断は不可欠といってよいでしょう。
「残業ゼロ」の発生原因は多元的
残業削減の取り組みを効果的に進めるために、まず残業の原因をつきとめることが不可欠であることと、現象から見た一次的発生要因については、以前のコラムでも触れましたが、今回はもっと発生の要因を掘り下げてみたいと思います。
残業の発生要因は多様ですが、次のような複数の次元に分解することが可能でしょう。
1)論理と心理 (論理的要因か心理的要因か)
論理的要因とは、業務量、業務プロセス、設備等、自然科学に基づき合理的に組立てることができ、論理的に分析、解決が可能な要因のことです。
例えば、一人当たりの業務量が膨大で、残業が大量に発生している場合などがこれに相当します。
心理的要因とは、人間の心理に内在する要因に基づくものであり、精神状態により支配され、時に非合理的な判断に基づく人間の行動によって発生する要因のことです。
例えば、自分の仕事は終わっているのに、上司に気兼ねして付き合い残業をしている場合などは、上司への好意的配慮や、上司に嫌われたくないとか、評価が下がるのではないかという不安心理が原因となっています。
2)発生場所 (外部要因か内部要因か)
組織内、職場内等、内部的要因によるものか、それとも組織外(外部環境、顧客の要求等)の要因によって残業が発生しているか、物理的発生場所によって区分される要因の次元です。
例えば、残業の発生が、顧客の無理な納期要求の常態化によるのであれば、いくら内部の業務を効率化しても限界があります。このように残業の発生要因が外部にあれば、顧客との関係を変革することで初めて根本的「残業ゼロ」への解決が図られるでしょう。
3)発生レベル (組織・職場・個人のどのレベルか)
会社の価値観、政策等組織レベルの要因か、職場の雰囲気、規範等、職場レベルの要因か、個人に内在する要因か、組織的、人的要因のレベルの違いを区分する次元です。
例えば、会社全体として長時間労働を奨励する社風があれば、個人の努力では「残業ゼロ」は不可能であり、組織全体レベルの「残業」を促進する文化を変革する必要があります。
また、特定の職場だけが残業が異常に多く、残業の規範が定着している場合、上司が部下に長時間の残業を強要している場合などは、職場単位で残業を削減する取り組みが必要になります。
さらに、職場全体としては残業が少ないのに、特定個人のみ突出して残業が多い場合は、その人固有の問題解決が必要となります。
自社の残業実態を多次元の残業モデルとして解明する
上で述べたように、残業の発生要因は多元的であり、それらが複合したシステムとして残業を生んでいる場合が一般的です。従って、「残業ゼロ」の実現を図るためには、まず自社の残業システムをモデル化し、見える化することで残業の診断をつける必要があります。
例えば以下のようにモデル化することができます。
■論理・外部・組織型
競合他社との競争が激しいために、サービス競争により業務が肥大化し、慢性的に残業が発生している。
■心理・内部・職場型
管理者、部下双方に、残業しないと業績が下がるのではないかという不安が共有され、慢性的残業が職場の体質として定着している。
今回示したものだけで残業の発生次元をすべて網羅しているとは限りませんが、みなさんも残業が慢性化しているのであれば、自社、自職場、そしてご自身の「残業システム・モデル」の仮説を考えてみてはいかがでしょうか。それによって「残業ゼロ」実現への道筋が見えてくると思います。
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