第3回 適正な労働時間の根拠
執筆:松島 紀三男(まつしま きみお) 公開:
私は最近「残業ゼロ」「残業削減」を研究テーマとして力を入れています。ライフワークにしてもいいな、と思っています。そこで、これから「残業ゼロ」実現を目指して、それにまつわるいろいろなことを綴っていきたいと思います。お付き合いただければ幸いです。
前回は「適正な労働時間の根拠」についてお話ししました。
今回のテーマは、「なぜ、残業は発生するのか~その原因と背景~」についてです。
1.「残業ゼロ」は、まずは発生原因の究明から
「残業ゼロ」実現のための残業削減の取り組みを効果的に進めるためには、まず残業の原因をつきとめることが不可欠です。みなさんは、自社の残業発生原因を正しく把握していますか。また、残業は多様な原因が複合して発生していることが多く、多面的な観点から検討を進めることが必要です。
今回は、残業の発生に関わる要因について、多面的な角度から考えてみましょう。
2.「残業」を発生させる「10無」
「残業」がなぜ発生するのか、その原因は多様です。私がこれまで調査した結果とコンサルタントとしての経験則に基づき分析すると、以下のようなことが直接の原因となっているという結論にいたりました。私はこれを「残業を産む10無」と呼んでいます。
みなさんの会社、職場ではいかがでしょうか。あてはまるものがあるかどうか、チェックして
みてください。
1.無理
構造的低収益の事業、残業を前提としないと片付かない仕事量など、そもそもビジネスモデル、収益を産み出す仕組み、人事管理等に無理があるため、残業でなんとかしのがざるを得ない。
2.無駄
非効率な業務、価値を生まない仕事がたくさんあるため、無駄な残業を産む。
3.ムラ
職場間・職場内で業務の偏りがあり、特定の職場や個人に仕事が集中している。結果として労働時間のムラが、極端に残業が多い職場や個人を産む。
4.無用
職場内に雑音、割り込み、遠慮、不満、反目、不信、非協力、妨害等、無用の軋轢、葛藤がある。それらが仕事の生産性を下げ、残業を産む。
5.無気力
従業員一人ひとりの働きがい、モチベーションが低い。結果として仕事のスピード低下、改善の遅延等により、残業を産む。
6.無能
人財のスキル不足で生産性が低い。個々の従業員のスキル、管理者のマネジメントスキルの不足等が生産性を下げて残業が増えてしまう。
7.無関心
メンバー同士、お互い関心が無く、協力や調整、ナレッジの共有のためのコミュニケーションがない。結果として、残業の平準化、チームの相乗効果が働かず、残業が放置される。
8.無言
「残業があたり前」という文化(会社、職場の規範)が無言の圧力として働く。お互い早く帰りたくない言い出せないパラドクス(相手がそれを望んでいるだろうという先入観)が「付き合い残業」を産む(「部下ががんばっていから」「上司が帰らないから帰れない」というお互いの意思の逆の推測)。
9.無限
法定労働時間の限界を超えて、業績、報酬、人脈づくり、出世等の働くメリット、キャリア開発のため「もっとがんばろう」と、際限なく働いてしまう。
10.無管理
経営者や管理者が、上記の要因による慢性的残業や、生活残業などを放置して管理しようとしない。結果として、部下は勝手に残業を増やしてしまう。
いかがでしょう。当てはまるものがありましたか。残業が多いという自覚があれば、職場での話し合いや、ヒアリングを行い、上記の項目をチェックリストとして原因を把握、整理してみることをおすすめします。
なお、「残業」の発生には、多面的であるとともに、重層的にいろいろな要因が関係しています。次回は、「残業」発生のメカニズムについて、より深く、広く分析を進めていきます。
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